顕示選好理論では予算オーバーに要注意!

無差別曲線や予算線を書いて最適消費点や効用を考えるのは有効です。しかしいつでも無差別曲線や予算線が求められるとは限りません。そこで使えるのが今回紹介する「顕示選好理論」です。どのような理論なのかをまとめていきましょう。
顕示選好理論とは需要行動の観察から消費者の選考に関する情報を得ようとする考え方
顕示選好理論とは、市場におけてある消費者がとった需要行動の観察によって、その消費者の選好に関する情報を得ようとする考え方です。今までの買い物の結果・傾向から、その人の好みを考えようとする理論といってもいいかもしれません。45度線モデルで有名なサミュエルソンによって提唱された方法論で、リヴィールド・プリファレンス(Revealed Preference)と英語では呼ばれています。
たとえばx財とy財の2つの財の組み合わせを考えているとしましょう。x財の価格はP、y財の価格はQ、2つの価格は(P,Q)と表すようにします。そして市場価格が(P1,Q1)であるときの消費者の需要(最適消費な組み合わせ)が(x1,y1)であったとき予算線とグラフが下のようになります。
$$P_{1}x+Q_{1}y=I_{1}$$
顕示選好理論では予算オーバーのケースに対応できない
このときP1x+Q1yの予算内で購入できる財(x2,y2)に着目してみましょう。この消費者にとって、購入できるのに実際には購入しなかった組み合わせに(x2,y2)はなります。つまり(x2,y2)よりも(x1,y1)を選好するのがこの消費者の行動から顕示されたのです。シンプルに、市場価格が(P1,Q1)のとき(x2,y2)よりも(x1,y1)の方を好む人だととらえてもいいかもしれません。
等号をもちいて言い換えてみましょう。すると「$P_{1}x_{1}+Q_{1}y_{1}\geqq P_{1}x_{2}+Q_{1}y_{2}$が成り立つとき、(x2,y2)よりも(x1,y1)は顕示的に選好される」とできます。記号を使って「(x1,y1)≻(x2,y2)」と表しても大丈夫です。
ポイントとして、市場価格が(P1,Q1)のとき(x1,y1)も(x2,y2)も両方とも予算線の内側にあって両方の組み合わせとも購入自体は可能な点を押さえておきましょう。市場価格によって、そもそも購入ができない財を検討しているケースは顕示選好理論を当てはめる(好き・嫌い)以前に、買えないから買わなかったとの結論になってしまうからです。
弱公準とは、かならずしも・絶対的であるとは言い切れない弱い公準
なにかの結果・命題を導き出すための前提として導入される最も基本的な仮定を「公理」や「公準」と呼びます。厳密には公理に準じて要請される前提を指す言葉が公準なのですが、いまでは公理と公準は区別なく使用されるようになりました。
たとえば「a=bならばa+c=b+cが成り立つ」は、言うまでもない当たり前な情報かもしれません。このように絶対的であり理由もなく正しいとできる文章を公理や公準と呼ぶのです。対して今回登場した「弱公準」とは、かならずしも・絶対的であるとは言い切れない弱い公理や公準であるのを意味します。
顕示選好の弱公準とは、顕示選好理論を適用するために、予算オーバーを除外する条件
顕示選好の話に戻りましょう。さきほどのグラフに(x2,y2)を通る予算線$P_{2}x+Q_{2}y=I_{2}$を1本追加しました。I2はI1よりも傾きが急になっており、価格が変わったのが読み解けます。変化後の市場価格を(P2,Q2)としましょう。すると、(x1,y1)と(x2,y2)の間では、下の公準が成り立つといえます。
①「(P1,Q1)の下で(x1,y1)が(x2,y2)よりも顕示的に選好される」 ↓ ②「(x2,y2)が(x1,y1)よりも顕示的に選好されることは決してない」
これは上でおこなった説明からもイメージできるのではないでしょうか。さらに価格が(P2,Q2)に変化したと考えて②を言い換えてみましょう。
②「(x2,y2)が(x1,y1)よりも顕示的に選好されることは決してない」 →②「(P2,Q2)の下で(x2,y2)が需要されるときには、予算の関係で(x1,y1)を購入することができない (すなわちP2x2+Q2y2≧P2x1+Q2y1)」 →→②「(P2,Q2)の下で(x2,y2)が需要されるときには、(x1,y1)を買う費用はP2x2+Q2y2を超える (すなわち P2x1+Q2y1≧P2x2+Q2y2が成り立つ)
上の図でも確認できますが、市場価格が(P2,Q2)のとき(x1,y1)は予算線の外側に位置しています。つまり予算オーバーで買えないケースなのです。“予算オーバーで買えない”ケースは、顕示選好理論で考える好き・嫌い以前の問題といえます。
以上をまとめると、顕示選好の弱公準と呼ばれる下の条件に辿り着きます。
P1x1+Q1y1≧P1x2+Q1y2 ⇒ P2x1+Q2y1<P2x2+Q2y2 =(P1,Q1)の下で(x1,y1)≧(x2,y2)が顕示選好されている場合、 (P2,Q2)のとき(x1,y1)<(x2,y2)が成立しなければ顕示選好理論は適用できない。 =(x1,y1)≧(x2,y2)が顕示選好されているが、予算の都合で(x1,y1)を諦めて、 (x2,y2)を選択するしかないケースは顕示選好理論では検討できない (顕示選好理論を適用するには購入可能な財だけを選択している状態でなければならない)。
【参考書籍】
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