損益分岐点を総収入直線・総費用曲線や限界費用曲線・平均費用曲線からチェック

損益分岐点を総収入直線・総費用曲線や限界費用曲線・平均費用曲線からチェック

企業を経営するなら、ずっと黒字がいいでしょう。黒字とは利潤が出ている状態であり、利潤がマイナスで損失が出ていないかを経営者は日々チェックしているはずです。その黒字と赤字のターニングポイントが「損益分岐点」にあたります。損益分岐点の分析の方法を今回はチェックしましょう。

損益分岐点とは、利潤も損失もゼロになる市場価格と生産量の組み合わせを示す点

損益分岐点とは、黒字と赤字の境界点であり、利潤も損失もゼロになる市場価格と生産量の組み合わせを示す点です。企業活動の目的のひとつに、利潤の最大化が挙げられます。そのためには費用を抑えるのはもちろん、損失を出さないのが重要です。

ひと月のあいだで考えて、その月の収入が出費より小さければ利潤が残って目的は達成されます。逆に出費の方が大きければ目標が達成されないため企業活動を止めた方がいいと考えるかもしれません。そのちょうど境目であり、利潤も残らない・損失も発生しない点が損益分岐点なのです。

総収入直線TRと総費用曲線TC線から損益分岐点を考える

損益分岐になる条件は2つ挙げられます。まずは利潤も損失もゼロであるため、利潤π=総収入TR-総費用TC=0が挙げられるでしょう。グラフにすると総収入直線TRと総費用曲線TCが接している点を指します。つまり総収入TR=総費用TCです。もし総収入TR>総費用TCが成り立てば利潤πがプラスで黒字、総収入TR<総費用TCが成り立てば利潤πがマイナスで損失が生じており赤字といえます。

利潤πがプラス:総収入TR>総費用TC

損益分岐点

生産量Q1のときをみてみましょう。総収入直線TRが総費用曲線TCより上に来ている箇所であり、その間の幅が最大になっています。総収入TR-総費用TC=利潤πであるため、この条件下では生産量Q1が最適生産量といえます。

利潤πがゼロ:総収入TR=総費用TC

損益分岐点

さきほどは総収入直線TRの傾きが100円でしたが、つぎは80円になりました。総収入直線TRの傾きは、市場価格pを示します。つまり市場価格が下がったのです。すると総収入直線TRの傾きが小さくなり、下がったようにみえます。さきほどは交点がありましたが、総収入直線TRと総費用曲線TCは一点で交わるだけ、つまり接する状態になりました。

接しているのは生産量Q2のときですが、Q2以外では総費用曲線TCの方が総収入直線TRよりも上にくるため利潤πはマイナスです。よってこの条件(市場価格p=80円)では、利潤はないが損失も生じないQ2が最適生産量といえます。

利潤πがマイナス: 総収入TR<総費用TC

損益分岐点

さきほどよりもさらに総収入直線TRの傾きが小さくなりました。つまり市場価格が下がったのです。総収入直線TRの傾き(=市場価格p)が小さくなり、80円の場合は接していたグラフが、50円まで下がって総費用曲線TCと交点・接点を持たなくなりました。総費用曲線TCがつねに総収入直線TRよりも上にある状態です。

利潤π=総収入TR―総費用TCですが、総収入TR<総費用TCのため利潤πがマイナスになってしまいました。つまり損失が生じている状況です。ただし市場価格pはいち企業が勝手に上げ下げできるものではありません。そのため企業は、損失(マイナスの利潤)がもっとも小さくなる生産量Qまで調整します。

平均費用曲線ACにも着目しよう

損益分岐点

上で登場した総収入直線TR・総費用曲線TCの関係を示すグラフの下に、平均費用曲線ACが載っていたのをチェックした人もいるでしょう。平均費用曲線ACを載せた理由は、平均費用ACからも損益分岐点を検討できるからです。

平均費用ACとは、総費用TC÷生産量Qから求められる値でした。利潤πがゼロの場合を示す上の中央にある図をみてください。Q2のとき、総収入直線TR・総費用曲線TCが接しています。そのため総収入直線TRの傾きである市場価格pと総費用曲線TCの接線の傾きである限界費用MCが等しい…①のです。

操業停止点

また平均費用ACとは、総費用曲線TC上の点と原点Oを結んだ直線の傾きと同じになるのでした。中央の図において生産量Q2のときに、総費用曲線TC上の点と原点Oを結んだ直線が総収入直線TRと同じになる(重なる)のがイメージできるでしょうか。ここから2つが同じ傾きになるのがわかります。つまり平均費用ACと限界費用MCが同じ…②なのです。

①と②を合わせてみましょう。すると「市場価格p=限界費用MC=平均費用AC」が成り立ちました。これが損益分岐点の条件です。また平均費用曲線ACと価格線pの交点を「最低点」と呼ぶのも覚えておきましょう。

限界費用曲線MCと平均費用曲線ACから損益分岐点を考える

損益分岐点

場合によっては価格線pでなく、限界費用曲線MCが与えられるかもしれません。上図のように2本の曲線が引かれるわけです。またこの上図からは下のような情報も得られます。

総収入TR:p×Q → 長方形pααQ*Oの面積
総費用TC:AC×Q → 長方形pγγ*Oの面積
利潤π:TR-TC → 長方形pααγpγの面積

上の図にある点α(Q*,pα)のときは、赤く塗られたTRの部分が存在して利潤πがプラスと判断できます。では点αから価格が下がったらどうなるでしょうか。価格が下がれば利益が小さくなるため、企業は最適な生産量を模索します。

グラフでは、縦軸のpの値が下に下がるため、横座標も左に移動して生産量Qを少なくします。そして点αから点βまで移動してきたとイメージしてください。点βは最低点にあたり、これ以上下では平均費用ACの値が存在しません。点αは限界費用曲線MC・点γは平均費用曲線AC沿って移動し、2つの曲線の交点である点βで重なり合います。

もともとあった点α・点γが点βとひとつになったため、長方形ではなくただの直線になるのがイメージできるでしょうか。点βだけになってしまうと、長方形pααγpγがなくなる(面積がゼロになる)ため利益もゼロです。

よって総収入直線TRと総費用曲線TCを使って導き出した「市場価格p=限界費用MC=平均費用AC」の条件に合致しました。つまり平均費用曲線ACの最低点であり、限界費用曲線MCとの交点が損益分岐点になるとわかったのです。

補足

生産物の市場価格pが変化したとき、価格変化に合わせて生産量Q*は限界費用曲線MC上を移動しました。よって限界費用曲線MCがこの企業の供給曲線Sであるのも導けたのでした。

【参考書籍】