労働供給は賃金率が上がりすぎると減る!?
- 2021.09.25
- ミクロ経済学
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仕事とプライベートをしっかり分けてメリハリのついた生活が送れているでしょうか。経済学では、働くのか・休むのかの判断を賃金率にもとづいて人間は行っていると想定し、賃金率と所得との関係性を考察しています。あなた自身がどう判断しているのかも振り返りながら一緒に確認していきましょう。
余暇と労働の選択
私たちは、時間を余暇(休み)と労働(仕事)に振り分けて過ごしています。(制約がなく自由に使える)総時間をA・余暇時間をTとすると、労働時間LはA―Tで表せるでしょう。余暇時間は「leisure」からLe、労働時間は「yen」からYと書く場合もあるので適宜使い分けてください。また1日は24時間以上増えません。総時間A=24時間であり、24時間よりも多いのはありえないのも注意しましょう。
そして所得をI・賃金率をωとすると、下のような予算制約式が得られます。
$$I=ωL=ω(A―T)$$
まず1時間単位で考えてみてください。すると時給がちょうど賃金率ωだと捉えられます。たとえば時給1000円で日中の10時間を総時間としましょう。予算制約式は下のようになります。
$$I=1000円×L=1000円(10時間―T)…①$$
①の予算線と合わせて、所得Iと余暇Tの無差別曲線を上に書いてみました。横軸に所得Iをとり、労働Lによって得られる所得Iと余暇Tの関係性が無差別曲線からわかるようになっています。x財とy財の二つを比べているのと同じ要領で、余暇Tと所得Iの組み合わせで効用Uが最大になる点がEであるのが導けるでしょう。
労働供給曲線の後方屈曲性
新しくグラフを書きました。賃金率ω1・ω2・ω3にしたがって、予算線を3本・最適消費点をE1・E2・E3の3点ほど打っています。このときE1からE2に移動した際には労働Lが増加して余暇Tが減るのが一般的です。しかしE2からE3では労働Lが減って余暇Tが増加します。
このように賃金率ωが上昇するのにしたがって、最初のうちは余暇Tを減らして働く(労働Lを選択する)傾向がみられるでしょう。しかしある賃金率(この場合ではω2)を超えたら働くのを止めて余暇Tを増やす(労働Lよりも余暇Tを選択する)法則があるのです。
労働供給は賃金率が上がりすぎると減る!?
この場合の労働供給曲線は上図のような形になります。印として点A(ω’,L’)をつけましたが、点Aまでは労働時間Lが増えるのに、Aより上の賃金率ωでは労働時間Lが減っているのが確認可能です。このような労働供給曲線の特徴を「労働供給曲線の後方屈曲性」と呼びます。ある基準から労働供給曲線が曲がっていて、右下がりの部分がある場合(上のグラフでは賃金率がω’以上)が該当します。
さきほど登場した上左図にもE1・E2・E3が書かれてありますが、測定してみると上右図のような位置関係にあると考えられます。労働供給曲線が余暇と所得の組み合わせを考えたときの最適な組み合わせ(最適消費点・需要)をたどった軌跡であるのも伺えるでしょう。
労働供給の代替効果・所得効果
もともと労働Lは、本来つらくて嫌なものと考えられています。そのため限界効用MUがマイナスです。つらいことを我慢する代わりに対価として所得Iが得られます。対する余暇は増えると嬉しい限界効用MUがプラスの財です。つまり労働供給では、限界効用MUがプラスである所得Iと余暇Tのどちらを選択するかを考えていることになります。
2財に所得効果・代替効果が働くのは、x財・y財で考える場合と同じです。$I=ωL=ω(A―T)$を思い出してください。賃金率ωが上がるのは、余暇Tの価格も上がるのを意味します。すると代替効果によって余暇Tは減少・労働Lは増加するでしょう。さらに賃金率ωの上昇は、所得Iの増加にもつながり、余暇Tは上級財だと考えられます。つまり所得Iが増えて、余暇Tを増やしたくなるのです。所得の変化の影響なので、この余暇Tの増加は所得効果になります。
よって賃金率ωが上昇する場合、代替効果と所得効果が逆にはたらくのです。代替効果で余暇を減らし労働Lは増えるが、反対に所得効果によって余暇Tが増えて労働Lは減ります。労働供給曲線に後方屈曲性がみられるのは、賃金率ωが上がりすぎると所得効果よりも代替効果の方が大きくなってマイナスの方向にはたらくからです。給料が上がったら休んで遊びに行きたくなるのは、経済学を使わなくても、イメージできるかもしれません。
【参考書籍】
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