比較静学分析とは変化前後の結果を比較する分析方法

比較静学分析とは変化前後の結果を比較する分析方法

2つの対象を比べると、違いが出て検討しやすくなります。経済学では、与件を変化させて経済にどのような影響が及んだかを調べるときに、2つの対象を比べて分析する「比較静学」という手法を用います。どういった分析方法なのかを詳しくまとめていきましょう。

比較静学分析とは変化前後の結果を比較する分析方法

比較静学分析とは、変化前と変化後の結果を比較する分析方法です。需要曲線と供給曲線の交点である均衡点は、課税などで与件が変わると変化します。その変化前と変化後の均衡点の座標などを比べると、税金の負担割合が調べられるのです。

かりに価格も数量も均衡である商品に従量税が増税されたとしましょう。すると与件が変わってしまったため、供給曲線が動きます。増税の場合は上へのシフトです。供給曲線が上にシフトすると、価格が上がり元の数量のまま供給していては売れ残りが出てしまいます。

そのため生産者は生産量(供給量)を減らして調整するのです。すると均衡点も移動します。もともとの均衡点をE、移動後の均衡点をE’とすると、EとE’の値を比べるのが比較静学分析なのです。

従量税とは財の量1単位につきかけられる一定額の物品税

上で登場した「従量税」とは、財の量1単位ごとにかけられる一定額の物品税です。市場で取引が行われる際に、1単位ごとに課されます。似た言葉に「従価税」があるのをご存知の方もいるでしょう。従量税が財の量1単位ごとにかけられるのに対して、従価税は財の価格1円ごとにかけられる一定額の物品税です。しっかり区別しましょう。

従量税の納税者は生産者です。ただ直接的には納税しないまでも、市場価格の高騰によって消費者も税を負担している側面があります。たとえば従量税の増税をうけて生産者が商品の金額を上げた場合、全額を商品代金に上乗せするとはかぎりません。増加分のいくらかを生産者が商品金額に載せることで、消費者側も税金をいくらか負担するようになっているのです。

このように納税者ではない人に税の負担が及ぶのを「転嫁」とよびます。そして生産者と消費者の税負担の割合(消費者への転嫁の割合)を分析するために比較静学分析が行われるわけです。

比較静学分析の流れ

では比較静学分析を実際にやってみましょう。増税前で、均衡状態にあるときのグラフは下のようになります。文章にするとわかりづらいので、箇条書きでまとめてみました。

増税前の元の状態

比較静学分析

p*円でx*個の商品を企業が供給していた
S:p=ax+c
D:p=-bx+d

↓↓↓

従量税の増税

比較静学分析

1単位あたりt円の従量税が増税
→価格:p*→p*+t
→供給曲線Sがt円分だけ上に移動→S’:p=ax+c+t
→→価格高騰によって売れ残りが発生

↓↓↓

市場調整が働き、均衡点が動く

比較静学分析

価格高騰が調整され、均衡価格に落ち着く:p→(p*+t→)p’
取引量も均衡取引量に落ち着く:x→x‘
均衡点:E(x,p)→E’(x’,p’)

↓↓↓

比較静学分析

※A・F・G・G’は説明の都合で加筆

比較静学分析

価格上昇分:E’F=p*’-p*→1単位の財について消費者が負担する税額 …①
生産者の収入が減少:EG→AG‘ (AG’の高さ:財1単位からの収入)
生産者の収入の減少分:FA→1単位の財について生産者が負担する税額 …②
E’F+FA=t

従量税の負担割合の公式

また従量税の負担割合については公式が示されています。頭に入れるのはもちろん、[A]と[B]が成り立つのを計算して確認してみましょう。

【従量税の負担割合】
消費者の負担額/生産者の負担額
=需要曲線の傾き(絶対値)/供給曲線の傾き …[A]
=供給の価格弾力性/需要の価格弾力性   …[B]

[A]消費者の負担額/売り手の負担額=需要曲線の傾き(絶対値)/供給曲線の傾き

E’F+FA=t

E’F/EF=需要曲線の傾きの絶対値 …③

FA/EF=供給曲線の傾き …④

③④から、需要曲線の傾きの絶対値/供給曲線の傾き=$\frac{E’F}{EF}\div\frac{FA}{EF}=\frac{E’F}{FA}$

①②から、消費者が負担する税額/生産者が負担する税額=需要曲線の傾きの絶対値/供給曲線の傾き

[B] 消費者の負担額/生産者の負担額=供給の価格弾力性/需要の価格弾力性

需要の価格弾力性と供給の価格弾力性はそれぞれ下のように定義づけられていました。

$e_{ d }= -\frac{p}{x}\cdot\frac{Δx}{Δp}$…⑤

$e_{ s }=\frac{p}{x}\cdot\frac{Δx}{Δp}$…⑥

課税前の均衡点Eにおいて弾力性を測ると、⑤⑥における「p/x」は、座標が同じであるため値も同じp*/x*をとります。しかし⑤の「Δx/Δp」は需要曲線の傾きの逆数=-EF/E’Fであるのに対して、⑥のは供給曲線の傾きの逆数であるためEF/FA になります。

そのため⑦⑧は下のように整理できます。

$e_{ d }=-\frac{p}{x}\cdot -\frac{EF}{E’F}=\frac{p}{x}\cdot\frac{EF}{E’F}$…⑦

$e_{ s }=\frac{p}{x}\cdot\frac{EF}{FA}$…⑧

⑦⑧から$\frac{e_{ s }}{e_{ d }}=\frac{EF}{FA}\div\frac{EF}{E’F}=\frac{EF}{FA}\cdot\frac{E’F}{EF}=\frac{E’F}{FA}$(消費者の負担額/生産者の負担額=供給の価格弾力性/需要の価格弾力性)

【参考書籍】