操業停止点を総収入直線・総費用曲線や限界費用曲線・平均可変費用曲線から分析

操業停止点を総収入直線・総費用曲線や限界費用曲線・平均可変費用曲線から分析

ビジネスを始めるためには準備が必要です。パソコンや机などの備品を買った分は最初赤字になるでしょう。月々の売り上げが芳しくなくても、最初に払った分を回収するまでは廃業しない方がいい。そんな分析のときに登場するのが「操業停止点」です。総収入直線LRと総費用曲線TCや、限界費用曲線MCと平均可変費用曲線AVCを組み合わせて可視化もできます。操業停止をするときの条件を確認していきましょう。

操業停止点とは、生産活動の停止が合理的だと考えられる点

操業停止点とは、収入や価格が変化するなかで損失が大きすぎるため生産活動を停止するのが合理的だと考えられる点を指します。操業停止になる場合、収入はなく、むしろ損失があるのがほとんどでしょう。ただし仮に損失が出ていても、固定費用が損失を上回っている場合は、操業を続けた方が企業にとって合理的だと考えられるのです。

総収入TRは、価格p×生産量Qで計算できるため価格に依存します。生産した商品の値付けは自由にできるかと思うかもしれません。しかし実際は、市場価格よりも高いと売れ残りが発生し、安いと生産が追いつかなかったり機会損失が発生したりするのです。

結局、生産者は市場価格に近い金額で価格をつけます。市場価格は、消費者の意向などあらゆる要素によって決定するため、生産者一人二人が集まったぐらいでは変えられません。あらゆる状況に応じて変化する市場価格とにらめっこをしながら、生産者は生産量を調整したり操業停止点や損益分岐点を検討したりしているのです。

損失=固定費用の点が操業停止点

操業の継続・続行を検討するときには、損失と固定費用の大きさを比べます。固定費用の方が損失よりも大きい(損失<固定費用)の場合は、固定費用を回収するために企業は操業を続けるのが合理的なのです。

しかし損失の方が固定費用より大きくなる(損失>固定費用)と、固定費用を回収するどころか損失が膨らむ一方になります。損失と固定費用がちょうど同じ(損失=固定費用)の点が操業を停止するのに合理的なターニングポイントです。続行と停止の分岐点こそ、損失停止点であり企業がみるべきポイントといえるでしょう。

総収入直線TRと総費用曲線TCから操業停止点を考える

3つの場合をグラフにすると下のようになります。固定費用FCは縦軸切片の高さで表されるのでした。下のグラフではわかりやすいように5000万円の固定費用が発生するケースとして考えてみましょう。

損失<固定費用

操業停止点

総費用曲線TCと総収入直線TRの間の距離が損失(マイナスの利潤)を表します。グラフでは青い矢印を書いてみました。総収入直線TRの傾きが市場価格pを示しており、上のグラフではp=70円となっています。損失が1000万円でていると書いていますが、固定費用FCの5000万円よりは小さいです。よって損失(1000万円)<固定費用FC(5000万円)のため、操業は続行と判断できます。

損失=固定費用

操業停止点

市場価格pが60円に変化したと想定しましょう。総収入直線TRの傾きも合わせて変化します。総費用曲線TCは変化しませんが、市場価格pが変化したために、総収入直線TRと総費用曲線TCそれぞれの傾きが同じになりました。それを表すために、総費用曲線TCが生産量Q4のときの接線(縦軸切片から出た、総収入直線TRと平行になる線)を引いています。平行な直線は間隔も等しいため、青矢印で示した損失の大きさも固定費用FCと同じ5000万円になりました。つまり損失(5000万円)=固定費用(5000万円)になったこの点こそ操業停止点にあたるのです。

損失>固定費用

操業停止点

市場価格がさらに低下して、p=40円になったとしましょう。総収入直線TRの傾きもさらに小さくなりました。その分だけ総費用曲線TCとの距離が広がり、青矢印も大きくなります。損失が8000万円まで膨らみましたが、固定費用の5000万円にくわえて3000万円の損失が新たに発生している状態です。損失(8000万円)>固定費用(5000万円)で、もちろん操業停止をすべき状態といえます。

平均可変費用線AVCにも着目しよう

操業停止点

3つのグラフを3つ集めてみました。それぞれに総収入直線TR・総費用曲線TCのほかに、市場価格pと平均可変費用AVCの関係をしめすグラフをチェックした人もいるでしょう。実は、平均可変費用AVCからも操業停止点を検討する場合があるのです。

中央のグラフを見てみましょう。ちょうど総費用曲線TCの接線(固定費用FCを示す縦軸切片から引いた線)と総収入直線LRが平行になっていました。つまりそれぞれの傾きが同じであり、総費用曲線TC(の接線)の傾きである限界費用MCと総収入直線TRの傾きである市場価格pが同じ…①なのです。

操業停止点

つづいて平均可変費用AVCについて確認しましょう。平均可変費用AVCとは、可変費用VC÷生産量Qや平均費用AC−平均固定費用AFCで計算できる値です。グラフでは、固定費用を示す縦軸切片と総費用曲線TC上の点を結ぶ直線の傾きから求められるのでした。

3つ並べたグラフの中央は、縦軸切片から引いた直線と総費用曲線TCとの交点がひとつだけの場合が描かれているとの見方もできます。上図でいえば、B1の場合は縦軸切片から引いた直線が総費用曲線TCと二つ交点を持っています。B2のように1点だけで交わる(接している)ケースが3つ並んだうちの中央の図のパターンです。このとき平均可変費用AVCと総収入直線TRの傾きである市場価格pが同じ…②だといえます。

①と②を合わせてみましょう。すると「市場価格p=限界費用MC=平均可変費用AVC」がちょうど損失=固定費用の点で成り立ちました。これも操業停止点の条件のひとつといえます。また平均可変費用曲線AVCと価格線pの交点を、損益分岐点のときと同じく、「最低点」と呼ぶのも覚えておきましょう。

限界費用曲線MCと平均可変費用曲線AVCから操業停止点を考える

操業停止点

価格線pではなく、限界費用曲線MCや平均費用曲線ACと一緒に平均可変費用曲線AVCが書かれて問題を解く場合もあります。上に図を示しましたが、赤青黄色で塗りつぶされた部分が下の値を示します。

総収入TR:p×Q → 長方形pααQ*Oの面積 ※赤・青・黄の全ての箇所
総費用TC:AC×Q → 長方形pcCQ*Oの面積 ※青と黄で塗りつぶした箇所
利潤π:TR-TC → 長方形pααγpγの面積 ※赤く塗りつぶした箇所
固定費用FC:TC-VC → 長方形pγγδ’pδの面積 ※青く塗りつぶした箇所
可変費用VC:TC-FC → 長方形pδδ’Q*Oの面積 ※黄色く塗りつぶした箇所

操業停止点

さきほどまでは赤い箇所が存在して、利潤が発生していました。しかし上図では価格がpαのところまで下がっています。企業も生産量を減らしていますが、平均費用曲線ACの最低点βよりも価格線が下がってしまい、利潤πが出なくなりました。赤字の状態です

しかしまだ平均可変費用曲線ACの最低点であるδよりは上の位置にαがあります。青と黄色の長方形が残っているのはわかります。ここからさらに価格が下がってpδより下がると、平均可変費用曲線AVCの最低点δと重なり、青い長方形が消滅する(面積がゼロになる)のがイメージできるでしょうか。このとき「p=MC=AVC」の条件が達成されました。

pδよりも価格が下がると可変費用分しか捻出できていない状態に入ります。利潤を稼ぐどころか、固定費用すら稼げず、損失が拡大していく状態です。以上より平均可変費用曲線AVCと限界費用曲線MCの交点が操業停止点であるのがチェックできました。

【参考書籍】